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概要

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川越祐子・ I I■■■|『伝統の1・馬追いに初挑戦」I』串間市を尋ねた最初の記憶は小学生のころの夏休み。家族と訪れた「都井岬火まつり」だ。それから何度通っているだろう。ある時は、丘の上で寝そべる親子馬にばったり。ある時は、牧水歌碑(旧国民宿舎前に「日向の国都井の岬の青潮に入りゆく端にひとり海見る」の碑がありますね)の前でゆったりと飛ぶトビを見上げる。ある時は、崖に鎮座する御崎神社に手を合わせながら、潮騒のリズムに揺られるー。周りの馬や猿、蘇鉄だちと変わらない“ただの生き物"になれる時間が大好きだ。そんな静かな都井岬に、大声が飛び交っていた。「そっち行ったよ。丘に回れ」「逃げないで。思い切って前に出て」。昨年9月29日、県の「中山間盛り上げ隊」に参加し、初めで馬追い"に挑戦した。馬の健康のためを思って追い込む人間と、迷惑がる(?)馬との知恵比べ。普段からは想像がつかない攻防が繰り広げられた。馬追いは、健康診断やダニを駆除する薬を飲ませるため、毎年1回行われる。例年は牧組合のメンバーのほか、宮崎大学の先生や学生たちで行っているそうだが、昨年は盛り上げ隊に初めて声が掛かり、入隊しているわたしは、ちょっと迷って参加を決めた。あの傾斜を走って馬を追うと聞いて、自分の体力と少し相談。だが体験してみたいという興味が優った。数頭の馬の群れを、ひと群れずつ柵の中に移動させる。広い丘や山の中で馬を探し出し、柵に入ってもらうのは、なかなかの至難の技。馬は丘を駆け上り、駆け下りる。もちろん人間は追いつけない。見つけたらなるだけそっと近づき、徐々に行ってほしい方向へ移動させ、その間に大きな人垣を作る。人垣を少しずつ少しずつ狭めてプレッシャーをかけて、柵へ引き込むというわけだ。一見、「馬VS人間」のようでいて、馬と呼吸を合わせながらの「人馬一体」の感があった。都井岬ビジターセンターでは、江戸時代の馬追い(駒追い)のジオラマを見ることができる。検査とともに、軍馬として育てるオスの子馬を別にするため行われていたという。丘の上で見物しながら藩主たちがお弁当を食べたり、民衆が寝そべったりしている。気分よかっただろうなあと想像しながら、長く続いてきた伝統の行事にあらためて敬服。そこに自分が参加できたことに、またじわじわと感動が湧いてきた。先日、訪れた都井岬。馬追いの喧騒はもう忘れたのか、私がカメラを構えて近づいても、馬たちはもしゃもしゃと無心で草を食んでいる。厳しい冬を乗り越えて、豊かな春がめぐってきたことを実感する。今年の馬追いの前に、一度、春駒にあいさつに行っとこうかなあ。